金沢徒然その3・・・筍と魔所封じの里「別所」
「黒壁山薬王寺」

 「魔魅棲む所として、きこりも日傾く時は行かず。」と畏れられた黒壁 山は、金沢の中心部から車で南へ30分程の別所町にあります。深い緑に包まれて、ひっそりと佇む「黒壁山薬王寺」。九万坊大権現と呼ばれるこの寺の奥の院に妖魔は封じ込められています。本堂の裏手から、谷へ降り山女の棲む渓流沿いに20分ほど歩くと、切り立った断崖の中腹にぽっかり口を開けた岩穴に奥の院があります。取り付けられた鎖にすがりながら岩穴に辿り着き、花が供えられた祭壇に手を合わす。振り返れば深い谷と、どこまでも続く翠の森の中に閉じ込められた様な錯覚に囚われてしまいます。この地に妖魔を閉じ込めたのは他ならぬ前田利家。前田利家が能登から金沢に入ったとき、金沢城の辺りは妖魔棲む魔界だったと言われます。その魔所を制し黒壁山に閉じ込めて金沢城ができたのです。尤もこの魔物退治伝説は、前田利家が浄土真宗門徒の一向一揆を封じ込め加賀藩を建てたところからきていると言われます。尾山御坊を中心にまとまった宗教集団は、利家にとって魔物にも匹敵する脅威だったんでしょうね。

 別所はまた、格別なやわらかさと味を誇る筍の里でもあります。山科から別所、小 原といたるところ竹林。この竹は江戸中期、江戸藩邸詰めの足軽「岡本右太夫」が持 ち帰った孟宗竹が始まりと言われています。桜も終わりつつじの花が目立ち出すこ ろ、八百屋さんの店先に、”夕掘り”の看板の横に新鮮な筍が昆布と共に並びます。 新鮮な筍は茹でずに昆布と共に煮ます。えぐみのない味が、やわらかく口に広がりま す。別所では、多くの農家がこの時期だけ筍料理の看板を掲げ、掘り立ての筍を食べ させてくれます。酢みそでいただく筍の刺身、てんぷら、煮物、酢の物、筍とわかめ のお吸い物、筍ご飯、山菜と香の物といった筍尽くしのコースで2500円くらいで す。さわやかな春の日に、竹林を眺めながら農家の座敷でいただく筍料理は格別で す。九万坊大権現のハイキングをかねてちょっと足を伸ばしてみてはいかがでしょう か。