金沢徒然その6・・・鰤起こし
蕪ずし

◆ 鰤起こし・雪起こし
  パラパラパラと屋根を叩く霰(あられ)の音と、一瞬の閃光に大地を揺らす雷。「雪起こし」また「鰤起こし(ぶりおこし)」とも呼ばれる初冬の手荒なセレモニーを経て、金沢は本格的な冬を迎えます。 「雷に驚いて海の底のぶりが網にかかるんだよ。」と子供の頃教えられたように、鱈・鰤・ずわい蟹と冬のお魚が出そろい、正月用品を買い求める人で近江町市場も賑わいをましていきます。  鰤起こしを待ちわびたように、金沢の各家庭では「かぶら寿し」の本漬けに入ります。輪切りにした青かぶらに塩漬けの鰤を挟み、丹念に麹を乗せて漬込んだ「かぶら寿し」は金沢のお正月にはかかせないもの。 かぶはサクッとしていて柔らかく、極上のロースハムのようなピンク色の鰤の身は決して塩辛くなく、淡雪のような麹が全体にまろやかな甘みを醸し出す。そんな一番美味しいかぶら寿しをお正月のお膳に乗せるため、金沢の主婦は空を眺めながら、かぶの漬け時に腐心します。下漬けから美味しく頂けるまで、気温に最大の注意を払いながら40日はかかるかぶら寿し。近頃は暖冬のため鰤の塩漬けや青かぶらの下漬けは冷蔵庫に頼らざるおえない年が多くなりましたが、本漬けだけは鰤起こしの空の下、凍える手で一枚一枚丹念に漬込みたいものです。お正月までの日にちを一枚一枚数えながら。